以下は、2018年8月21日のニュースです。
上場企業の株持ち合い比率 17年度、初の1ケタ台、野村系調べ(2018.8.21)
野村資本市場研究所は21日、上場企業の株式持ち合いの調査をまとめた。2017年度の上場企業の時価総額全体に占める株式持ち合い比率は、前年度に比べて0.6ポイント減の9.5%(保険会社を除く)だった。1990年度の調査開始以降で初の1ケタ台で、11年度から7年連続で過去最低を更新した。(中略)
17年に資生堂はみずほフィナンシャルグループや東京海上ホールディングスなどの株式を一部売却した。ユニー・ファミリーマートホールディングスは18年2月末までにカゴメなどの株式を売却した。
生命保険会社や損害保険会社の保有分を含め広義の持ち合い比率は0.8ポイント減の14.1%と過去最低だった。16年度は速報値の株式持ち合い比率は9.9%だったが、確報値は10.1%だった。
野村資本市場研究所の西山賢吾氏は「持ち合い比率はすでに最低水準。解消は引き続き緩やかに進む」と解説する。保険会社を除く持ち合い比率は、今後3年間で9%程度まで下がるという。
出典:日経新聞(抜粋)
1.株式持ち合いとは
2つ以上の企業が相互に相手の株を所有すること。経営権の取得、安定株主の形成、企業間取引の強化、敵対的買収の回避などが主な目的。
日本での株式持ち合いは、戦後の財閥解体後に始まり、その後、1960年代の資本の自由化を経て1980年代後半のバブル期まで企業間の株式持ち合いが拡大しました。
バブル崩壊後は、株価急落、企業経営の悪化などにより持ち合い株の売却が進みました。
2001年には、金融機関の株式持ち合いを制限する「銀行等の株式等の保有の制限等に関する法律」が成立し、金融機関の株式持ち合いの解消を後押しすることとなりました。
また、2015年6月に適用されたコーポレートガバナンスコードによって、他社の株式を保有し続ける場合にはその狙いや効果を株主に説明することが必要になりました。
各企業で国際会計基準(IFRS)の採用が広がり、簿価の低い持ち合い株を売ってすぐに買い戻す「益出し」と呼ばれる方法がIFRSではできなくなったことも、持ち合い解消に拍車をかける要因となっています。
IFRSに関する解説はこちらから↓
冒頭のニュースによると直近7年間も、持ち合い比率は減少し続けているんだね。
法律もそうだけど、やっぱりマイナス面も大きいのかな?
その通りです。株式持ち合いにはデメリットもあります。
では、メリットも交えながら整理してみましょう。
2.株式持ち合いのメリット・デメリットとは
株式持ち合いのメリット・デメリットは次の通りです。
【メリット】
- 安定株主による経営の安定化
- 敵対的買収を回避
- 系列関係の維持や取引関係の強化
解説:取引上の関係のある複数の会社が相互にお互い株式を持ち合うことによって、株主総会で「物言わぬ株主」として一定の議決権を行使することになります。これによって、株主総会をスムーズに終わらせることができ、経営を安定化させられることができます。また、外資からの敵対的買収に対する防衛策としても有効とされています。
メリットに関しては、主に会社側の視点に立ったものばかりです。
続いて株式持ち合いのデメリットです。
【デメリット】
- 一般株主の声が経営陣に届きにくくなる(経営陣に圧力がかかりにくくなる)
- 資本効率の低下(ROE上昇が難しくなる)
- 株式持ち合いの相手の株価が下がれば、会社財産を毀損することに…
非効率経営にストップをかけられなくなる
解説:「物言わぬ株主」が多くなることで経営陣に圧力がかかりにくくなります。また、会社の財産を成長させるための投資に資金を回せない状態にしてしまうため、ROEを上昇させることが難しく、株主にとってのリターンが低迷する可能性があります。しかも、保有している持ち合い相手の株価が下落してしまった場合には、会社財産が大きく毀損してしまいます。
株式持ち合いは、効率経営の足かせになっちゃうんだね。
敵対的TOB対策って理由も、このご時世通用しないし解消していくべきね。
ええ、その通りです。
気が付けば、マイさんもずいぶんと投資家としての視点が養われてきましたね!
3.まとめ
冒頭のニュースの通り、株式持ち合いを実施している企業は近年減少傾向にあります。
株式公開買付けの規制が見直され、敵対的買収の脅威が薄れたこと、経営陣が株主の声に押されROE志向の経営にシフトし始めていることが持ち合い解消の理由となっています。
直近の例では、市場からの圧力を受け、ユニー・ファミリーマートホールディングスがカゴメ株などを売却、また、イオンもパナソニック株を手放しました。
株式持ち合いは全体として推進されていますが、鉄道や百貨店など事業構造上取引先の多い企業は持ち合いを維持する傾向があります。
業種ごとの特色を理解し、企業研究をしてみると新たな発見があるかもしれません。
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