2018年に放送され話題になったドラマ・ハゲタカでは、「ホワイトナイト」や「ゴールデンパラシュート」といったM&A用語が多数登場しています。
これらの言葉は、企業買収の防衛策として有名な手法です。
買収防衛策とは一般的に、企業が敵対的買収をされないために導入する対策のことを指します。
これには大きく分けて、買収のターゲットにならないようにする予防策と、ターゲットにされたときの対抗策の2つがあります。
予防策に関しては、日本で最も多く実施されるのは株主の安定化です。
具体的には、取引先や系列企業、あるいは従業員持ち株会に自社の株式を保有してもらう、といった策です。
一方で、対抗策としては様々な方法があります。
有名なものでは買収された際に元の株主が有利に新株を購入できる「ポイズンピル」や、逆に買収をし返す「パックマンディフェンス」などがあります。
日本では2005年、ライブドアがフジテレビに買収を仕掛けた出来事以来、各社が買収防衛策を強化するようになりました。
しかしその一方で、経営者が自らの保身のため買収防衛策を導入しているのではないかとの批判もあり、近年、導入した買収防衛策を廃止・見直しするケースもみられるようになっています。
今回の記事では、企業が実施する買収防衛策について、解説していきます。
代表的な買収防衛策
1.ゴールデン・パラシュート(Golden Parachute)
買収防衛策のうち、予防策にあたる施策です。
敵対的買収が成功すると現在の取締役は解任されることが多いですが、ゴールデンパラシュートはその点に着目し、あらかじめ取締役の退職金を高額に設定しています。
これにより、買収が成立した場合に多額の退職金を支払うことで、財務内容が将来的に悪化することを予想し買収を諦める、といった予防効果が見込まれます。
※通常、ゴールデンパラシュートに使われる退職金の額は取締役の給料の3倍程度であると言われています。
この施策は、キャッシュフローに大きな悪影響が出てくる場合があります。
アメリカではかなり有効な防衛手段とされていましたが、日本ではあまり馴染みがない施策です。
2.ホワイトナイト
ホワイトナイトは、敵対的買収の防衛策の一つで、対抗策にあたります。
買収対象が自らにとって友好的な第三者である会社に、敵対的買収者より有利な条件、すなわち高い株価で株式公開買付を実施してもらい敵対的買収者を退けることを指します。
ホワイトナイトについては、下記記事で事例を交えて解説しています。
3.クラウンジュエル(焦土作戦)
直訳すると王冠の宝石。
敵対的買収に対抗する防衛策の一つで、 買収対象となった企業が、買収者の魅力となっている資産・事業を第三者に疎開させて買収意欲を失わせる方法です。
侵入してきた外敵に武器や食料を与えないように、事前に領土を焼き尽くす戦術の名前に由来しています。
日本での実際の例では、2005年2月~4月のライブドアvsフジサンケイグループのニッポン放送株の争奪戦です。
ライブドアがニッポン放送株を過半数取得する前に、フジテレビジョン株などをフジサンケイグループの企業に譲渡することが検討されたことが、まさにこれにあたります。
4.ポイズンピル
買収防衛策の一つで、既存の株主にあらかじめ新株予約権を発行しておくことで買収を食い止める方法です。
企業が敵対的買収者に自社の株式の一定数を奪われてしまった場合、あらかじめ定められたポイズンピル(毒薬条項)に基づいて新株が発行されます。
そして、新株予約権がすでに発行されている既存株主が、市場価格(時価)よりも安い価格で新株を取得することになります。
そうすると、買収者の持つ株式数の全体に占める割合が低くなり、支配権が弱まり買収に歯止めがかけられるというものです。
ポイズンピルは、買収者に対して文字通り「毒薬」を盛る効果があります。
しかし、その一方で、新株発行により株価の値下がりは避けられず、一般株主にマイナスの影響を与えことになります。
5.マネジメントバイアウト(MBO)
会社経営陣が株主から自社株式を譲り受けたり、事業部門統括者が当該事業部門を事業譲渡されたりすることで、オーナー経営者として独立する行為のことです。
MBOに関しては、敵対的TOBを回避することのみが目的ではなく、株主に左右されない経営を行いたいという意図により実施する場合も多く、その後再上場するケースもあります。
6.パックマンディフェンス
敵対的買収からの防衛策の一つで、買収をしかけられた企業が、買収をしかけた企業に対して逆に買収をしかけることで防衛する方法のことを指します。
現在、日本では買収の対象となっている企業が、買収を仕掛けている企業の株式の4分の1を取得すると、買収を仕掛けている企業が保有する株式の議決権は失われます。
column パックマンディフェンスの由来
プレイヤーが操作するパックマンは、普段はモンスターに追われていますが、パワーエサ(パワークッキー)を食べると逆にモンスターを食べることができます。
そのため、敵対的買収者をモンスター、被買収企業をパックマン、パワーエサを敵対的買収者を買収するために必要な資金に見立てて、敵対的買収者に対して逆に買収をしかけることから、その手法をパックマンディフェンスと呼ぶようになりました。
まとめ
解説の通り、企業買収から自社を守るための施策は、様々なものがあります。
全てを暗記する必要はありませんが、理解すると投資家としての目線だけでなく経営者の目線を理解することにも繋がります。
買収防衛策は、マネーゲームを防止する策としては一見、有効に思えます。
しかし、買収されること以上に大きな不利益が潜む場合もあります。
例えば、業績が悪いにもかかわらず、役員の椅子に固執する経営陣が買収防衛策を実施してしまうと、投資家が企業に対して影響力を行使することができなくなってしまいます。
買収防衛策による弊害があることも頭に入れておきましょう。
各企業の買収防衛策を調べたいときは、会社HPの投資家向け情報のページや経営方針・コーポレートガバナンスのページを確認する、あるいは、検索エンジンで「買収防衛策 ○○(社名)」で検索することでチェック可能ですので、一度調べてみると面白いかもしれません。
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